ネッタイシマカ

本種は、かつてわが国でも熊本県天草、琉球列島で生息が確認されたが、1970年代以降採集されておらず、現時点ではわが国に分布していない。もともとアフリカに起源のあるヤブカで、大帆船時代に人の移動とともに世界各地に分布を拡大した。人の生活に密接に関係した生態を持ち、人家の周辺で生活している。幼虫は屋内外の人工容器に発生する。屋内では、花瓶、金魚鉢、アントトラップ、手洗いの貯水槽など、水を満たした状態でしばらく放置されるような容器に発生する。屋外でも水がめ、植木鉢の水受け皿、竹の切り株、空きびん、空き缶、古タイヤ、ドラム缶、駐車場などの排水口に残された水たまり、クーラーの室外機から出る水を受ける盤など多種多様でどちらかといえば小さい容器に発生する。東南アジアの近代的都市のひとつであるシンガポールでも、徹底した媒介蚊対策にもかかわらず、いまだにネッタイシマカの根絶には成功しておらず、コンクリートジャングルのような無機的な環境でも生息できるヤブカである。

卵は水の入った容器の壁面、水面よりわずかに上の湿った部分に1卵ずつばらばらに産み付けられる。産卵後2日程度で胚発育がいったん停止し、その後水位が上昇して卵が水につかるまで孵化しない。卵は乾燥状態で少なくとも1カ月は生存できる能力を持っている。熱帯地域では孵化幼虫は約10日で成虫まで発育し、吸血に来るようになる。

昼間吸血性で吸血活動には日周リズムがあるが、日中であればほとんどいつでも吸血のために飛来し、薄明・薄暮あるいは昼により多く吸血に来る。室内のタンスの裏側、ベッドの下、つり下げられた衣服の間などに潜んで、人が近づくのを待ち伏せるタイプの蚊である。ヒトスジシマカに比べて、動作が素早く捕獲するのが難しい。飛来した個体を何度追い払っても、しつこく吸血に来る。知らないうちに首筋や耳の後ろ、腕の後側など気がつきづらいところを吸血されている。屋外でも庭や軒先の日陰などで吸血に来る。デング熱の流行地では、さぞかしたくさんのネッタイシマカが吸血に来るだろうと思うかもしれないが、意外なことに、多数のネッタイシマカに襲われることはない。むしろほとんど気にならない程度にしか、吸血には来ない。そのような低い生息密度であるにもかかわらず、デング熱の流行は継続している。これは、ネッタイシマカに関係したもっとも不思議な現象である。

重要な防除対策は発生源対策(発生源をなくすこと)である。吸血回避には、蚊取り線香による空間処理や忌避剤の塗布などが有効である。長袖、長ズボンを着用すれば、衣服の上から吸血されることはまずない。

http://idsc.nih.go.jp/iasr/25/288/dj2887.html より引用